だから太ってしまったのかもしれないと思うほど、幼少期の私は牛乳が飲みたかった。らしい。
その日も、もう何杯も飲んでいて、その姿に心配した母親から「最後の一杯」を注がれていた。
私はその液体が、もっと飲みたくて仕方なくて、母の手を”ちょん”と押した。
牛乳は、もちろんコップから溢れ、烈火のごとく怒る母に謝りながら私は、グランドピアノの下に泣きながら逃げた。
それが心的外傷になって、牛乳が嫌いになったなどということは無い。
無い、が、そこまで好きじゃない。幼い私が、なぜそこまでしてしまったのか、今となっては分からない。
それに、この記憶は怪しい。子供のころ住んでいた家に、グランドピアノなどなかったから。