ブログ「いらけれ」

予想以上に、
予想以上に、
夢は夢で過ぎてく?
でも、どうだろう?
残るだろう?
そこ、ひとつ。
君さ。君の灯り。

中村一義「新世界」

彼女が一つ、くしゃみを高い音でした、電車内にその音が、絶対音感を持つ男がファだと思ったとき、そこは東京ではなかった。線路が近くを通っていた赤い工場では、かまぼこで、蟹が作られていた。東京で並べられていた人々は、カップの底に沈んだ黒い粒を、メルカリに出品したらいくらになるか分からなかったから、閉まったシャッターに鼠を書いたことでバンクシーを目指した。僕は、バンクシーを崇めるよりバンクシーになるべきだ、バンクシーになるということは、バンクシーの真似をすることではない、新たな固有名を獲得することだと思った。例えるならばそれは、動物園のなかで、二本足で立ったレッサーパンダだ。子どもの頃、スーパーの屋上で見たレッサーパンダは着ぐるみで、28歳のアルバイトが入っていた。彼は六畳一間で寝起きしていなかった。起きなかった。二度と目を覚ますことがなかった。天国への永住権が受理されたら、あなたは移住しますか、それとも高速道路の下で、腐ったベッドで寝起きしますかと壇上から問われた。授賞式でスピーチしていたのは、宇宙人だった。僕らは宇宙人と呼んだが、宇宙人にも名前があった。中浦和。潔癖症。凝固剤。濾過槽。平清盛。ゴレンジャーみたいに5色に分かれていた。僕がそれを撮影した。部屋のなかには、等身大のマジンガーZのプラモデルが置かれていた。スピーチはまだ続いていた。アフタートークには、いるやつと、いらないやつがある。誰もが頷いた。トークはテクニックだった。人心を掴むのは簡単だ。科学的にアプローチすればいい。あなたは、詐欺師の口ぶりに深く納得し、彼のまなざしに魅せられた。詐欺師を滅ぼすべきだと思った。僕が詐欺師を滅ぼすためには、人語を解する必要があった。世界にある言葉が分からない。文字の連なりは、縦に14㎝、横に16㎝と、どんどん伸びていたが、僕の頭は余計に混乱するばかりだった。窓の向こうの、ストロベリームーンが輝いているはずの空には、たくさんの雲が発生していた。僕の未来のように何も見えなかった。夢が叶わないことは、大きな問題ではない。夢を持つことが問題なのだ。真理が脳髄を撃って倒れた男は、もう二度と、多くのことを考えない。梅雨の夜の壁を這っていた無数のなめくじみたいだなと思った。