レインコートを着用して席に戻ると、雨の勢いは少し弱まっていて、「わざわざ買う必要なかったかなー、はっはっは」などと軽口を叩いていたが、その先にあったのは野球観戦ではなく、降りしきる雨への忍耐だった。滝に打たれているかのようだった。とても寒くて、会話の8割が雨のことになってしまった僕らは、試合終了を待たず、7回終了時に泣く泣くその場を離れることにした。
球場から大きな歓声が聞こえて、追加点を奪われたことを知る。負ける瞬間を見なくて済んだと思えば、まあ、悪いことじゃないんだと自分を納得させる。近くの野外ビアガーデン施設は、人っ子一人いないのにまだ開いていて、施設内の大きな滝は流れ続けていた。本当に柔軟な対応ができない社会だとも思うが、それによって助かること、助かる場面もあるだろうから、難しいよねという話をした。
信濃町から高田馬場へ、乗り換えのためにそこで一旦降りる。西武新宿線が、人身事故によって止まっていたのも、運転再開したばかりなのも知っていた。だから、甘く見ていたということなのだろう。階段を上ったところで窓から見えたホームは、リョコウバトを思い出させるほど混んでいたし、人で溢れかえった改札前の空気は、異常な湿気を帯びていた。引き返して山手線、池袋からも帰ることができるというのは、東村山に住んでいる利点である。
急行を一本見送って、次の準急では座ることができた。あの混雑を思えば、天国と地獄だ。出発進行した車内では、手に汗を握りながら、スマートフォンの画面を見ていた。9回裏を、1点ビハインドで迎えたヤクルトが、少しずつチャンスを拡大していく。デッドボールやフォアボールで、2アウトながら満塁。残念ながら、映像を見る手段を持っていなかったために、スポーツナビの野球速報の更新を待っていた。逆転したら、とてつもないドラマだ、が、どうやっても、もう目の前では見られない。やけに複雑な気持ちを抱えたことは、しかしながら無意味なことで、最後は奥村の三振で試合が終わった。
所沢で立ち食いそばに寄って、久米川で別れた。雨はすっかり弱まっていたから、少し歩こうかとも思ったが、やめておく。シャワーを浴びて湯船につかり、体を労わってから布団に入る。昨日までに、履歴書の準備を終えておいて、本当によかった(やればできる子!)。明日は朝から面接があり、3社回らなければならなかった。僕はちゃんとやり通せるだろうかと、不安に思いながら眠った。
目が覚めた。