ブログ「いらけれ」

よっちゃんに会った。おおよそ、会いそうにもない場所で。「新宿SJビル」は、大規模な工事中だった。それまで使われていたエントランスは、工事車両の出入のために閉じられ、それどころか、数十メートル手前の歩道から封鎖されている。渡ってきた信号を戻って右に曲がり、50メートルほど真っ直ぐ行って、また信号を渡ったところに、小さな階段がある。遠くからでは見つけられないほど、こじんまりとした階段は、二つの地表を結んでいた。新宿の中を歩いてきたのに、眼下にも新宿があった。これだから都会は嫌だ。降りてまた信号を渡り、やっと仮設の出入口に辿り着いた。

ビニール傘を閉じたり開いたりして、雨粒を飛ばしてから、前もって駅近くのスーパーにわざわざ寄って、そこのごみ箱に捨てずに持ってきた傘袋へと入れる。用意周到、準備万端。スーツを着るのは、どれくらいぶりだろうか。ワイシャツのボタンが苦しい。トイレの鏡で見た紺のネクタイは、自分の性根ほどは曲がっていなかったから、エレベーターフロアに向かった。

よっちゃんはそこにいた。高校生時代のよっちゃんは、はっきり言って頭の悪い男子だった。授業中の態度も、テストの点も悪かった。造作だけは良かったから、将来はホストに、いやヒモになるんじゃないかって、皆が口々に言っていたっけ。

懐かしさに浸っていた時間は短かった。こちらに気が付いて、驚いた表情をしたよっちゃんに、「久しぶり」と言った。面接で来たことを告げて、下りてきたエレベーターに乗り込みながら、「そっちは?」と尋ねた。最先端のスピードで、すぐ目的の5階に到着してしまったから、よっちゃんは10階のボタンを押していたのに、開いたドアから出た。

ビルの一階で座っていた。白いテーブルに手を置きながら、スマートフォンを眺めるふりで、周囲を窺う。大きなビルなのに、ほとんど人はいなかった。テーブルとイスは、他にもいくつか設置されていたけれど、誰も使っていなかった。10分後によっちゃんは来た。本当に、ビジネスマンのなかのビジネスマンといった装いと面持ちだ。笑ってしまいそうになる。

お世辞にも偏差値が高いとは言えない大学に進学したよっちゃんは、そこで、人が変わったように勉学に勤しんだ、というわけではなかったみたいだ。人当たりの良さと見た目と、あと、少しの運がよっちゃんに味方した。代返と、ちゃんと出席していた人のノートと、ゼミやサークルの先輩とのつながりを駆使した。そうやって、上手くやれる人がいることを、僕は知っていた。差し向かいで腰掛けている自分が、とても惨めに思えた。あの面接の調子では、契約社員にすらなれないことが、分かり切っていたから。

話を終えて外に出ても、雨は降り続いていた。よっちゃんの連絡先が登録されたスマホにイヤホンを刺して、駅へと向かう。よっちゃんには仕事があったが、僕には自由な時間があった。ツイッターで話題になっていた映画を見よう。何かを忘れるために。行き先を変更した僕は、傘も差さずに大股で新宿を歩いた。