暴き出す
理想の休日を過ごす自分を書くなかで、理想の自分らしきイメージが輪郭を持ち始め、しかしそれは、私の理想ではなかったはずなのに、私の理想がその書かれつつある理想に上書きされてしまったから、今ではそれが理想になった。
書くことは恐ろしい。記憶も思想も信念も、手の運動の奔流に巻き込まれ、流されてしまったことに気が付かないままに、知らず知らずのうちに変わった私が私だ。
本当の私は、動物園の檻の中で一匹、向こう側の檻にいるハシビロコウと見つめ合っていた……みたいなやつは、さすがにやりすぎでしょうか。真実の休日は、マーガリンを探し歩いていました。これ、マジです。
それは、いつもの通りアンケートサイトのモニター品で、「置いてあるスーパーマーケット」の一覧には、名前は知っているけれど近くにはないチェーン店(オーケーやらヤオコーやらスーパー玉出やら)や、名前も知らないチェーン店が並んでいたものの、それでもポイントへの欲望が(僕の中で)勝利を収めた。そして、申し込んでしまった。
重要な情報を後から出すのが文章のテクニックで、実はリストの中にイオンが含まれていて、イオンは歩いていける距離にあるからと安心していたのだが、そりゃあ、商品はなかったのである。ここから旅は始まり、ありとあらゆるスーパーマーケットを見て回ることになったが、どこにもなかったので、歩数は1万8千歩になった。
最後の最後、へとへとになりながら辿り着いたヨークマートにはあって、(本当にあるんだ……)と妙な感動を覚えたのだが、恐ろしいことに、それには2百円を超える値段が付けられていた。何が怖いって、もらえるポイントはこれより少なく、赤字になってしまうのだ。(もう良いじゃん、ここをルーベンスの絵の前ということにしよう、疲れたよ)とも思ったのだが、ぐっと我慢して、家に帰って詳しく検索してみると、行けなくはない場所にあった。リストに名前が載っていたスーパーアルプスが(知らないチェーン店だ……)。それで翌日に40分かけて行ったら、当然、スーパーも商品もあった。商品は170円で、諦めなくて本当によかったと思った(たかが40円で)。
家の数キロ先の知らないスーパーは、どこか少しフィクションめいている。フィクションみを感じて、ゾンビ映画に出てきそうだ、とまで思う。そこが新宿や渋谷ならまだしも、同じ東村山市なのに、という思いがある。別の人々がいて、別の景色があり、別の暮らしがあることは、頭で分かっても心で分からない。それはおそらく、とても似ているのに、全然違うからなのだろう。「170円です」と言ったレジの女性に「カードで」と返したら、「お支払いはこちらで」と精算だけセルフで行う機械を困った顔で指差された。やっぱり、そこには別の当たり前があった。
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