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ブログ「いらけれ」

上がっていた息がまだ整わない内に、車内表示によってこれが荻窪駅行きであることを知った。ワイヤレスイヤホンからは、音楽が流れていた。冷静さを取り戻すために、窓の外を見た。女が、大きなキャリーケースを引いていた。


ゆうらん船「青い鳥」

間違いの元となったのは、阿佐ヶ谷駅行きと荻窪駅行きが、途中までは同じ経路を辿り、同じ名前の停留所を通ることだった。だからグーグルマップを開いたり、乗換案内で検索したりして分岐点を探し、その手前の停留所で降りることにした。それは、百数十円のバス代が惜しくなるほど近かった。歩道では大きな犬が、別の犬を連れた男に飛びかかろうとしてリードに引っ張られ、立ち上がっていた。

事の経緯を追えば、焦るのも仕方がないと思うだろう。早足は速く、内側に熱がこもっていく感じがあるというのは嘘だ。グーグルマップには経路検索機能があり、10分前には到着するだろうという余裕を持って歩いていた。それはもちろん、一般的な速度を保っていた場合であって、そこまでゆっくりしているわけにはいかなかったが、比較的暖かな空気のなかで、見慣れない街の見慣れない店を横目で見ていた。ガラス窓の向こうには、無数の骨董品が並んでいて小粋だ。女が扉を引いて、からんと音が鳴った。

アーケードを抜けたら会場に着いて、アンケートに答えたからアーケードを引き返した。家に帰る頃には、どうしようもなくたこ焼きが食べたくなっていたのは、アーケードの銀だこを見たからに違いない。そこの銀だこはハイボール酒場という居酒屋のようなお店で、ハイボール酒場について書いた記事を、デイリーポータルZで最近読んでいたこともあって、近づいてメニューを確認するなど、注目しすぎてしまった。ああ、お腹が空いた。

再びアーケードを抜けても、正しいバスに乗って鷺ノ宮駅には戻らなかった。阿佐ヶ谷駅から中央線にも乗らなかった。下井草駅まで歩いて行ったのは、運賃が三十円安かったからだ。四十分程度だった。これなら歩けるな、と思った。不意に、阿佐ヶ谷駅までの最安ルートを見つけてしまった。人生とは違って、遠回りは無駄ではなかった(のか?)。住宅街には大きな下り坂があって、その先では青いヘルメットの少年が小さな自転車でこけた。後ろでそれを見ていた父親らしき男から差し伸べられた手に引かれながら彼は、すぐそばのアパートに消えた。日は暮れて、空は夕景を描いていた。


Theピーズ「ノロマが走っていく」

ブログ「いらけれ」

Posted by 後藤