無意味の輝き2

ブログ「いらけれ」


BUGY CRAXONE「ロマンチスト」

ママ、世界はインチキだけど
思いやりながら生きていくのって
ロマンチックさ

考えないようにしている。いや、思わないようにしている。思わないようにしているという表現の方が正確だ。正確に自分の心を表現してはいけないと学んだばかりなのに、そうしてしまう。

季節の変化は不規則で、暖かくなるかと思えば寒くなる。寒くなったかと思えば熱くなる。熱くなったけれど、涼しい風が吹いている。あれだけ綺麗だった藤の花の紫は、すでに存在をなくしている。どこかから生まれて、どこかへ消えた。

あの藤棚に向かう前に、精神科のある病院の脇を抜ける前に、大きな霊園の正門まで15分ぐらい歩いて、霊園の一番外側の道を15分ぐらい歩いて、小さな出口から出なければならない。最近は、そのルートばかり歩いている。人が少ないというのもあるし、そこで人が死んでいるのが安心という気持ちもある。人は死ぬが、天気雨だった。雨粒はとても小さくて、風に舞っていた。小さな虫がたくさん飛んでいた。どれが虫で、どれが雨だか分からなかった。視界がざわざわしていた。家に着いたら雷が鳴って、大雨になった。開け放った窓からは、ざーっという音が流れ込み続けていた部屋には、蜘蛛がいることを私は知っている。蜘蛛と暮らしてる。私は蜘蛛が嫌いなのに、壁に這うそれをじっと見ていたら、殺してしまうほど嫌う必要もないと、そう思った。でも、ある時突然に、首筋にしがみつかれたら嫌だな、という気分で過ごしている部屋で、私は『トト・ザ・ヒーロー』と『神様メール』と『リトル・ダンサー』を見た。見たはずなのに、何も覚えていない。普段なら絶対にしないような誤読をした。抑うつ状態には、集中力と判断力と記憶力が鈍ってしまうようだ。すべての前と後をつなぐことができない。それでいて、今に専念することもできない。人体実験の真っ只中にある私は、その霊園の側を歩いていた。どれだけ蔑ろにされても、優しくしてしまうから駄目なのかもしれない私の頭の上に何かが落ちてきて、下を見ても何もなかった。向こうからやってきた壮年の男は、すれ違いざまに天を指差したが、私にはその意味が分からなかった。戸惑いながら少し進んで、迷ったけれど踵を返した私を目掛けて、飛んできた烏が顔の横を通り抜けた。そこで初めて、霊園を囲む柵に掲示されていた「カラスに注意してください」という貼り紙の意味が分かった。

ブログ「いらけれ」

Posted by 後藤