決めな
崖の上に、人が立っている。こちらを向いている。ヘリコプターから空撮された映像は、とても大きく荒い波が、何十メートルも下の岩壁にぶつかるところまで捉えているが、顔はよく見えない。近づいて左側を抜け、そのまま遠ざかる。気がついたら、あるはずの後ろ姿は消えている。
強く信じている記憶は、その真実味が現実と変わらないのならば、記憶にある出来事が現実にはなかった出来事だったとしても、私にとっての現実になるのならば、妄想でも構わない幸福を、地獄の業火に焼かれながら、強く信じることができるだろうか?
死んでいた脳細胞が復活し、頭が痛くて眠れなかった僕の10時から始まった時間は11時になり、それでも比較的涼しいから助かる。家の近くの大きな交差点は赤信号で、赤信号で止まった目の前の車は、横断歩道に差し掛かっていたから、少しだけバックした。それを見る私は、抗うつ薬を処方されたときに、「飲み始めは腹を下すことがある」と言われたことを思い出していた。精神と身体。精神の薬で下痢になるというのは、どういうことなのだろう。この副作用のように、私の存在が他者を苦しめている。轢かれたいと思った。
まったく最悪の気分だ。なにもない。すべてを放棄する。力がない。知識も意欲もない。手も足も出ない。このまま死ぬと知っている。誰よりも僕に希望がない。これで本当に生きてきたと言えるのだろうか。生まれたことも生きたことも失敗だった。そして未来が死んでいた。
フリーズした夜だった。ときどき、大きな車が走る音が聞こえ、いたたまれなかった。あらゆる手段がとれた。ただし、その勇気がなかった。暗闇に目が慣れ、そこに天井はあったが、僕の上に落ちてくることはなかった。床が抜けることもなかった。僕は、おかしくなってしまった。もっとおかしくなってしまう前に、今を捨てる必要があった。部屋を用意しよう。普通の人のように暮らそう。その世界を見よう。人間のメッキを僕にあげよう。そうしたら、まともな小説の一つぐらい書けるようになるだろう。この決意は、死なない遺書のようなものだった。あるいは、殺さない復讐なのかもしれなかった。考えた時間の長さで、カーテンの向こうが明るくなり始めた。少しずつ、天井は白くなった。"希望の朝"だ、そう思って眠った。
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