「鮮やかにときは過ぎ」#1
小島ケイタニーラブ | はるやすみのよる (Official Music Video)
連日連夜、酒を飲んでしまうこのうらぶれた生活は、落ち込んだ気持ちから導き出された不正解で、コップのなかのウイスキーが優しければまだ生きていけそうなのに、そんなこともないから余計に辛くなって、胸の痛みを理由にして出かける。
風が強いから木とか気が揺れている。下ばかり向いていたらいけないと思って、顔を上げるとそこには、家の前を掃いているおばさんの羽織るゆったりとしたローブの首元からタトゥーが覗いているその、それまでの暮らしは遥か向こうにあって、考えられるはずもないそれを、小説という形であれば、書くことができるだろうか?
私に、とか考えている私は、東村山駅からまっすぐ伸びる道を、その通りに歩いているのであって、向かっているのは多摩湖だった。緩やかな上り坂は、それと気づかないほど緩やかだ。NHKラジオの聞き逃しを聞いている。聞き逃しを聞くということは……聞き捉えか?
武蔵大和駅の前は、それなりに人が出ていて驚いている私も、その中の一人なのであって、湖までの明確な上り坂でたくさんの人とすれ違って、若干の後悔が頭をもたげるけれど、もう少し頑張れば何とかなるのか?
強い風は後方から吹いていた。広い景色のもたらすヒーリング効果を狙っていた。目の前が開けたら、本当に少しだけ、心が穏やかになった。湖に沿う道を向こうまで、小さな子どもを手すりの上に乗せて写真を撮ろうとしている父親に(怖いことをするなあ)、などと思いながら歩いた。湖の表面に波が立ち、まるでレースゲームの踏むとスピードアップする板の模様だ。それが、前へ前へと進んでいる。自分の足元も、動く歩道のように前へ前へと進んでいるような錯覚がある。前へ進む。
一望できないほど大きな公園の、変な出口から出たら変な道に出て、自分がどこにいるか分からないけれど、おそらくこちらだろうという方向感覚に従って進むと、一年生まで通っていた小学校の前に出て、フェンス越しに見える小学校の校庭は、小学校の校舎から一段低いところにあるのが特徴的で、校舎と校庭の間にはスロープと、小学生にとっては高すぎる壁があって、そうだ、転校する前に開かれたお別れ会の後、雨が降っているのにここに友人たちと飛び出してサッカーをした、あの頃の、幸せそうな私はどこへ行ってしまったのだろう。
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