【N】からの旅-3
朝の街は冷たく、ミスドのコーヒーは温かい。温めてもらったクロックムッシュとフレンチクルーラーの後だと苦い。手元の本に目を落としていたら、店員さんがポットを持って来て、おかわりを注いでくれた。家の近くにミスドはなくて、コーヒーがおかわり自由なことを知らなかった。だから驚いた。1時間以上待たされていた。待ちながら読んだことは、その日の内に受け売りした。
本当は一日遊ぶはずだった。しかし彼は、夕方には職場へと戻らなければならなくなったという。忙しい事情を知っているから何とも言えないけれど、やはり寂しかったのが、結果的には功を奏したのかもしれない。少しテンションが下がったまま、とりあえず入ったコメダ珈琲で、将棋を指す気にもなれず、なんでコメダって豆が出てくるんだろうね嬉しいけどって話をしたり、アイスコーヒーを頼んだら、店員さんに甘みのあるものとないもののどちらにするか聞かれて、なんだそれってビックリしたり、「シロノワールプリン」というメニューを紹介する写真には、甘そうなパンの下に、甘そうなプリンがばっちり写っているのに、実物には付いてこないと聞いて、なんだそれってビックリしたりしていた。そのように、うだうだした昼間を過ごしていた。
「今どんな小説を書いてるの」と切り出したのは、事前のメールでそういう話が出ていたからだ。掌編さえ書いたこともないのに、行き詰っているという創作について、その原因を一緒に考えたりした。そうこうしているうちに、僕たちのなかで、知らぬ間に高まっていたのだ。それは目に見えなかったし、どんな計器を使っても測れなかっただろうけれど。
それで、「速報(あるいは遅報)」でお伝えした通り、同人誌を出すことになりました。僕が一番驚いています。
その場で、来年5月に行われる「第三十回文学フリマ東京」に申し込んだ。先着1000ブースに入ったので、抽選を受けなかった。つまり、出店が確定した(一応、キャンセルする道はあるんですけどね……)。それからは、外見も含めてどんな本にするか、何を何ページ、どういったテーマで書くのかといったことを詰めていった。ある程度構成が決まってしまったから、それは約束になった。約束によって、僕たちはお互いを掴み合っている。逃げられないし逃がさないという相互監視状態で、退路が断たれている。
時間になって、駅まで送ってもらって、再会を誓って、まだ出発までは2時間あったからお土産を買って、駅ビルの「草笛」で信州そばを食べて(やっと長野らしいものを!)、最後に5℃の街を散歩してから、乗り込んだ新幹線のなかで小説を書き始めた。だからその物語は、新幹線に乗る男が主人公だ。(完)
【お読みいただき、ありがとうございました。これにて、長野への旅行記は終わりです。いつもは嘘ばかりついている僕ですが、上に書いてあることは本当ですよ!本当なので、頭痛派のメンバーが増えました(「頭痛派とは?」参照のこと)し、頭痛派の公式ツイッターが出来てますもの。まだまだ動き出したばかりで、不確定なことも多いですが、暖かい目で見守っていただければありがたいです。ちなみに、まだまだメンバーは募集中ですので、ご興味を持たれた方は、ぜひご連絡ください!】
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