【N】の旅-4

ブログ「いらけれ」

権堂駅は、時が止まっているみたいだ。あの、小さなサイズの切符を買ったのも久しぶりだったし、それを駅員さんに手渡して、ハンコを押してもらったのなんて、いつぶりだろう。さらに深いところにあるホームへの階段を下りながら、子どもの頃のことを思い出していた。こちらの小学校へ転校する前には、武蔵大和駅の近くに住んでいた、物心がついた頃は、ホームにつながる長い階段を上ったところに立つ駅員さんに、切符を手渡していたのではなかったか、遠い過去の記憶には靄がかかっていて、ディテールがはっきりしない。

切符を買った時に、必ずといっていいほどしてしまうのが、記載されている4つの数字(通し番号?)で10を作るという遊びだ。手元に目を落とすと、「4266」と書いてある。年季の入ったベンチに座って、考えながら辺りを見回す。その番号に電話をかけてもつながらなさそうな、商店の名前が入った鏡や時計が置かれている(数の組み合わせ的に、惜しいところまでは行くんだけど)。都心とは異なるリズムで、針が進んでいるのだろう(これ。絶対に10作れるはずだ。諦めないぞ)。悪魔みたいな音を立てて、電車は到着した。乗客は少ないようだった。開いたドアの真ん中に、その時、6を6で割って1、それを4に足した5に、2を掛ければいいと閃いた。僕の心は、とても満足した。

大きな麒麟の後ろでは、もっと大きな夕日が地平線に向かって落ちていく、天に向かって枝を広げた木には葉がなく、四本足の哺乳類の巨大な群れはゆっくりと西に進み、羽ばたきを止めた鳥が空を滑っていく。そんな夢を見る間もなく、再び長野駅に到着する。二駅だからね。駅員さんに切符を手渡してエスカレーターに乗り、やっと現代に戻る。ああ、今よありがとう。

最後の時間潰しで、おすすめされていた平安堂という、百貨店のなかの本屋に入った。もちろん、褒められたものではない本の棚もあったけれど、比較的大きくて、マイナーなジャンルの書籍も取り揃えられていたし、レジ前の花形とも言えるスペースに、海外文学が置かれていたので好感を持った。上の階では、文具や雑貨に加えて、あまり見かけないボードゲームも販売されていたし。

この間、ずっと聞いていたのは『東京ポッド許可局』だった。「最強論」の週だった。いつか「忘れ得ぬ人々」のコーナーで採用されたい。何か食べようか。食べないまでも、もう2万歩を超えているし、どこでもいいから腰掛けたい。コンビニのイートインスペースに座ろうか。ツイッターにDMが来ている。目立つところは、あの街頭ビジョンの下のドン・キホーテだろうか。「そこにいます」と返事をして、駅から歩道橋がつながるその店の前まで、エスカレーターに乗って行くと、もう一度ラジオに心を奪われた。駅前を行き交う人々のことを見下ろしながら、考え事に気を取られていたら、背後から声をかけられた。ビビった。

ブログ「いらけれ」

Posted by 後藤