【N】への旅-3
武蔵野線で座り、あまりにもねっとりとした車内アナウンスに、僕の目は覚めない。しかし、またすぐに乗り換えなければならない。「めざましテレビ」を目にしたのは、とても久しぶりだった。インナーウェアを着込んで家を出た。なんとか予定通りだった始まりは、埼京線の遅延によって乱された。僕は、余裕を持って出てこなくてよかったと思った。30分遅れの電車がホームに入ってくる前に、「黄色い点字ブロックの内側でお待ちください」と言うから、確かにそれは正しい描写ではあるけれど、と思った。
新幹線の出発時刻が迫っている。焦る。車窓から見える埼玉に、何かを思う暇もない。大宮駅に飛び出して、表示を頼りに新幹線のホームを目指す。エスカレーターがじれったい。座席は予約済み、そして、券売機での発券方法もチェック済みだ。ユーチューブに動画があったから予習しておいてよかった。ただ、「クレジットカードご利用票」というのが、券と一緒に出てくるのを知らなかったから、とにかく焦って、よく確認しないまま改札に入れて止められ、駅員さんに通り方を尋ねなければならなかった。一人で新幹線に乗ったことさえないという事実が、露見してしまった。恥ずかしさを抱きながら、2分後にやってきた車両へと乗り込んだ。
10時10分発あさま607号の7号車、3番Eという2列シートの窓側に腰を下ろす。周りを伺いながら、正しい振る舞いを探す。とりあえず、すでに前の席がこちらへと傾斜していたから、直角に近い背もたれを、僕も少し後ろに倒す。それでもなんだか違和感が残っていたのは枕のせいで、それを上下に動かせると気が付いたのは、「安中榛名は紅葉中!」というタイトルはどうだろうか、小説に、などと取り留めもなく考えていたときだった。
車内販売はないが、喉が渇いている窓の外は、まだ西武池袋線から見える景色と大差ないがスピードは速い。幽体離脱した自分が、その速度で動く自分を見たら滑稽に思うかもしれないが、がたがたと音がしているから、6000円近い料金も仕方がないのかもしれない。高速を保つためには、相応のメンテナンスも必要だし、もっと安かったらいいのに、と思わずにはいられない。これでは気軽に旅へ出られないじゃないか、だからもっと給料が高かったらいいのに、と思わずにはいられない。これが上手く行ったら、次は自由席でかまわないだろう、指定席も8割方空いているのだからそれは、12月4日19時8分発のあさま630号7号車3番Eでも同じことを思った。
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