経路

ブログ「いらけれ」


毛玉 – キジバト

あぁ神様 運命を変える力を与えてくれないか
それだけで強くなれるから

曲名を確かめて、ポケットに入れようとしたスマートフォンが、昨日から降り続く雨で濡れた道に落ちた。拾い上げると、角の塗料が取れたざらざらとした感触が伝わった。画面は割れていなかったが、汚れていた。

車両の隅に腰掛けて、ラジオから音楽に切り替えたスマートフォンを、窓の下の台に置いた。『いろんな気持ちが本当の気持ち』という題が胸を打つ。この時間の下りは空いている。長嶋有の文章が好きだ。小説や漫画についての評論からは、どこまでも本質を見抜いてやろうというような気概を感じる。そして、自分のこと(気持ち)を書くときには、適当な距離があり、冷めているのだ。芥川賞の選考会の前日に、「髭を剃っていきましょう」と出版社の担当者に言われ、それまでは何の主張もなかった髭に、しかもまだ受賞すると決まったわけでもないのに、固執し出す自分を書く。自分に対する戸惑いまで、その通りに書く。ジョン・アーヴィングの新作として、『第四の手』が紹介されている章があったから、それはいつのことだろうと「アーヴィング」で検索したら、存命であることに驚いた。自分のなかで勝手に、歴史上の人物として、かつてこの世界を生きていた文学者の箱に入れてしまっていたからだ。これからはこのように、無知を晒すことを躊躇わないようにしよう。そう心に決めた。集中していたら、あっという間に最寄り駅で、カバンに本を入れ、バッとスマホを手に取ったら、細長い汚れの端に、小さな蜘蛛だったはずのものが引っ付いていた。知らぬ間に殺生してしまったようだ。

新宿の高いビルの頭が、雲で隠れている。悪い人たちが棲みつく摩天楼、といった風情。工事中の迷路を抜けて、細かい雨でびしょ濡れになったとしても、報われるとは限らない。社会から求められていないのだ、と思う。気が付いたら、駅から遠ざかる動く歩道に乗っていた。相当にショックだったのだろう。

自分の機嫌は、自分で取らなければならない。ボルダリングでもロウリュでも、薬を飲むんでも、何でもいいんだけど。僕の不機嫌は千円。炭酸2本と大きなポテトチップス、袋麺、それに隠し味として入れたら美味しそうな香味ペースト。スーパーに入ったときは、皆から避けられていた試食販売の女の子が、お客さんを捕まえていて泣きそうになる。僕らには優しさが要る。会計を終えて、傘袋から取り出した傘を差す。家はもうすぐそこだし、心も大丈夫そうだ。炭酸とポテチが待っている(家にあるのではなく、手に持っているのだが)。ウイスキーを割って、空きっ腹に入れたら、実存がふわふわした。そこで曲が終わったから、ランダム再生を止めた。


BUGY CRAXONE「わたしは怒っている」Music Video

なにをやっているのさ
なにをたべているのさ
なにがだいじょうぶなのさ
わたし ちっともしらない
しらない

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Posted by 後藤