あと100年の命

ブログ「いらけれ」

画家が、描きたい風景の前に座って、紙に筆を付けたその瞬間に、僕は渋谷らくごのポッドキャスト「まくら」を聞きながら街へ出る。ニット帽を被って、それで髪型をセットすることもなく。先月まで銀行だった建物は、もう薬局としての形を取り始めている。夕方を過ぎても工事は続く。角の駐車場は更地に戻されていて、仮設トイレのドアが開けっ放しになっていて、下水道の匂いがする。人の少ない並木道。春風亭昇々さんのまくら、シバハマアフターで鯉八さんと吉笑さんが話していたやつだ。湯屋番が終わって、音声は「本と雑談ラジオ」に変わる。「本と雑談ラジオ」を聞きながら、ぶらぶらと散歩するのが一番心が落ち着くかもしれない。『このゴミは収集できません』について語られていて、読んでみたいと思う。歩数が少なかったので、ちょっとだけ遠回りをする。すっかり寒くなった、本当に。イオンで夕飯を買うことにしていた。家を出たときから。久しぶりに、コンビニ弁当が食べたかった。コンビニ弁当はコンビニ弁当で、炊き立てのご飯や、作り立てのおかずとは別物で、別のおいしさがある。気持ちに正直になって、ヒレカツ弁当と、「レンジで温めるだけ」というおろし鍋と、プリンアラモードを買った。合計で千円もして、自分にしては、少し気前がいいというか、ご褒美といった感じだ。人生が前に進む。

僕は大人になったから、もう保育園に通うことはない。あるいは、自分の子どもが生まれたらなどと思い、そんな少ない可能性のことを考えてもしょうがないと思い直す。この作りかけの、外国のお城をモチーフにしたファンシーな、それでいて鮮やかなピンク色の建物で育つ子どもは、どんな大人になるのだろう。家の方角に月が出ているから、帰り道はずっとそれを見ていた。とびきり美しい満月。うっとりしていたら、イヤホンの向こうから、声が近づいてくる。少しずつ大きくなる。「……だよ」「うふふ、オッケー、ローラだよ」「うふふ、オッケー、ローラだよ」「うふふ、オッケー、ローラ……」。自転車に乗った二人の少女は、言葉を交わしながら僕を追い抜いていった。心底楽しそうだった彼女たちは、どんな大人になるのだろうか。僕はどんな大人になったのだろうか。この300円のプリンアラモードを食べるに値する人間になれた?画家が、完璧に風景を絵に閉じ込めたとき、僕は家に着いた。


Homecomings “Hull Down"(Official Music Video)

ブログ「いらけれ」

Posted by 後藤