断章5

ブログ「いらけれ」

感情を走らせて、僕たちはどこまでも行こう。そんな夏は、過ごしてみたかっただけの架空の夏。金鳥の夏、日本の夏。

少し雨が降っていたらしい、窓から見える盛り上がって分厚い雲は、空に浮かぶ城のようだ。蒸し暑くて涼やかな季節性の風が、図書館からの帰り道に吹いて、日焼けた体で遊び続ける小学生の私が、巻き上げられた校庭の砂を吸い込んでしまう。げほげほ。

その角のマンションは灰色のネットに包まれている。工事中だから、絵の男が頭を下げている。頭上2メートルのところに、道を覆うように設置されている鉄の板は、作業員の落とし物を受け止める役割を担うと同時に、強い日差しも遮ってくれている。マンションの向かい側には白いフェンスがあり、雑草と木を取り囲んでいる。それらも、今日に生きている。

アスファルトに形作られた影の、その境目にぽとりと落ちた緑だ。2メートル先の葉のようなもの。ゆっくりと近づいたのは、猛烈な暑さで速く歩けなかったからだし、そこを通らなければ家に帰れなかったからだ。それは蟷螂で、両の鎌を振り上げながら彫刻のように固まっていた。私が真上から顔を接近させても微動だにしないから、私のことを認識しているのかどうかすら分からない。

通り過ぎた後も、あの蟷螂のことを私が考えてしまったのは、そこに他人を見たからだ。なにを考えているか分からない他人は、あの蟷螂と同じだと思う。独自の理屈、オリジナルなプログラムで動いている他人は、あの蟷螂のように不可解で、いちいちその意図を推察していたら消耗してしまう存在である。おそらく、これからはそんな他人を「あ、蟷螂だ」と思うようになるのだろう。

ブログ「いらけれ」

Posted by 後藤