ピラスター
数えるのをやめた。無駄な時間。死んだから。
暖かくなったり寒くなったり、どういうつもりなんだとキレたから、小高い丘の上から大声で叫んだ。エメラルドグリーンのフェンスの向こうに街があり、とても見晴らしの良い場所だ、ここは。子どもの頃から、何かあったらいつもここに来ていた。何があったかは、とてもじゃないけど言えない、だって今、(何があったっけ)と過去を思い返して、もう涙が出そうになっているもの。6月の早朝に、死ぬほど泣いた日。
目が覚める度に、また嫌な夢が始まるな、と思う。ずっと幸福でいられる錠剤だけを飲んで、そのまま忘れたいという気分の時は必ず、玄関の扉が重たくなるから体重をかけて開ける。この車は、湖の底に沈んでいるのかもしれない。
すれ違う女の子のピンクの、懐かしいあの素材の手提げ袋には何が入っているのだろうか、立ち止まって、袋に手を入れて、何かを確かめて、一足先に行ってしまった背中を目がけて、ばっと走り出した。学校帰りらしき子どもたちは一様に、重たそうなものを両手一杯に抱えていた。どうしてこうなった?
グレイソン・ペリー「男らしさの終焉」によれば、(習慣化されてはいなかったものの)19世紀までピンクは"男の子の色"だったという。大人の男性の赤い軍服のイメージから、この色が、小さい男性である男の子のものになったそうだ。その後、ピンクは徐々に"女の子の色"へと変わっていくわけだが、この変化をさらに大きく後押ししたのがアイゼンハワー大統領の妻・マミーで……という、さらに興味深い話については、本文を読んでいただきたい。
急だよ。自分の身体が路上に転がっている。植え込みにチューハイの缶が捨てられている。営業中の焼肉屋で世界が煙たい。電話を耳に当てているのは、カズーみたいな声の人だ。大学生の頃、肺炎で通院していた病院に、ショベルカーが刺さっている。移転したのは知っていたはずなのに、取り壊されると思っていなかった。もう、あのベッドや窓や木漏れ日はない。感傷に浸る間もない、前の薬局もない。それはそう、それはそうだろうけど早いよ。務めていた薬剤師の、思い出の場所もない。何もない。
ピラスターとは、付柱のことである。久しぶりに、建築学の本を読みたい気分である。あと、パチスロの〇号機みたいな、あの難しい歴史はウィキペディアでは足りないから、まとまった書籍で知りたいところだが、そういう本は出版されていないみたいだ、誰か書け。この通り、つまらない日常は装飾するしかなかった。だから生きて、日記を書いて、たまに読み返して、「この人は大丈夫なの?」って心配になって、それは何一つ本当ではないのにとても悲しくなるのは、なぜだろう。
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