息の続くかぎり
その時の僕は、だから、エラーやバント失敗を連発したスワローズが、しかし、相手がみすみすチャンスを潰してくれたおかげで、10回表に大爆発して12点を取るような、なんとも喜べない勝ち方をするなんて知らないし、その日の昼間はアンケートに答えるために秋葉原へ行ったが、2月並みの気温のなか雨が降るなんて、知る由もなかった。本当に寒くて、4月だっていうのにヒートテックを着た。帰りに、いくら歩数が足りないからといって、それに、乗っていたのが拝島行きの急行だったから乗り換える必要があったからといって、小平駅で降りたのは大失敗だった。雨と寒さと寂しさで死ぬんじゃないかと、あと言っていなかったけれど、これは1500文字という長さの文章になるから、このスロースタートを心配しないでほしい。僕は知っている。二日前に「伝えたいことがある」と書いたことも、その伝えたいことが何かということも、一か月ほど前のツイッターに「めちゃくちゃ良い事があったので、今までのことはすべてチャラになりました」と書いた理由も。それは、学生時代から著作を読んでいた人と仕事が出来たという、人生の伏線回収のような出来事があったからだ。直接会うことはなかったけれど、回線越しに会話しているということだけで感動していた。それは文章の形で世に出たが、カットせざるを得なかった膨大な話は僕だけが知っている。話しているあいだ、あまりにも贅沢で幸福だったから、自然と笑みがこぼれていた。笑いといえば、最近聞いた『本と雑談ラジオ 第84回』が忘れられない。中原昌也著『パートタイム・デスライフ』について、なかで「読みながら忘れていく」と古泉智浩氏が語っているから、小説の作風のせいなのかもしれないが、枡野浩一氏共々、大爆笑しながらたくさん話しているのに、まったく本の内容が伝わってこない。そして、それでもなお、とても読みたくなったのが不思議だ。ストーリーがどこかへ行ってしまうほどに、思い出しながら爆笑して話してしまう文章、小説って、どのようなものなのだろう。二人が会話を続けている間中、ずっと幸福な空気があって、僕は、そんな文章を書いてみたいと思った。中原氏のような教養とセンスがなければ、とても無理だろうけれど。最近は他にも、『アフター6ジャンクション』の「サタニック人生相談祭り」を聞いた。『アフター6~』は、毎週追いかけているわけじゃないので、特集を見落としてしまっていたようだ。内容はタイトルそのまま、人生相談をするというものなのだが、もちろん、"サタニズム"という側(がわ)はあるものの、転職の悩みなどについて、とても誠実な回答がなされていて、聞いてよかったと思った。一度、自分の好きな人と仕事ができたぐらいでは、仕事への不満がすべてチャラになるわけではない。当然のことだ。言うまでもないことだが、僕が伝えたかったのは、これらのことではない!僕が伝えたいと思ったのは、クーポンでもらった「マチカフェコーヒーS(アイス)」の、その小ささだ。思っていたよりもだいぶ小さい!大巨人のおちょこみたいな大きさだ。氷が入っているから、余計に量が少なく感じる。ああ、小さいなあと思いながら、歩きながら飲んだら、すぐになくなって、ストローからずるずるという音が響いた。だけど、晴れた日の住宅街を一人で歩きながらコーヒーを飲んで、好きなラジオを聞いて、仕事もなくてという状況が、脳髄から快楽物質を出している。それがなんとも非常に気持ちよかったから、捨てる場所がなくて、手に持ち続けていたカップの中の氷と同じスピードで、僕のストレスも溶けていくのが分かった。絶好調の顔つきで僕は、家に帰った。
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