感謝。

火曜日のあの日、午前中に面接を受けて、それが終わった時にはまだ、心は決まっていなかった。

ぼくは新しいことをするのがとても苦手だ。知らない店に入るのも、知らない人の中に入るのも。恥ずかしい話だ、初めて映画館に一人で行けたときは嬉しかった。とうに二十歳を超えていた。
ときどき、なけなしの勇気を出してみる。恥をかくこともあるけれど、そのおかげで楽しい思いをする方が多いことを知っているから。

神保町の、知らない店で鴨南蛮を食べた。たまたま頑張れる心と体調だったのだろう。その月から始まった「渋谷らくご」に行こうかどうか、ずっと迷っていた。けど、初の生落語行くぞって、その時決心できた気がした。
始まるまでのけっこうな間を、どう過ごしたのか覚えていないのは、おそらくドキドキしていたからで、多分街をうろうろしていたはずだ。

今では人気の「シブラク」も、当初はお客さんが少なくて、本当に。入りのまばらな客席は、そのまま埋まることなく、開演したのだった。後ろの方に、おっかなびっくり座っていた。

そこで、衝撃を受けたんだったなあ。終わったあと、速足で渋谷の街を歩いたのを思い出す。感動を、伝えるすべも相手も居なくて、興奮をそうやっておさめたんだ。
仕草と声色と表情で、情景が浮かんで。くだらなくて笑えて。愛とか教わったと思って。
あの「お直し」じゃなかったら、毎月公演に通ったりしなかったかもなあ。

今年初めの高座で、入院しながら色んなネタを思い出していたって話をされていた。もしかしてそういうことなのかなって思ったけど、忘れるようにしていた。数週間前に夢で訃報をきいたけど、現実じゃなくてよかったって思った。これからも、まだまだずっとなんて、そう思っていた。

来月からどうするか、今はまだ考えられない。でも、師匠もシブラクは良い場所になったって、そういってたし、どうしても見続けたい人がもういなくても、場所を信じて観に行く。
ああ、そしたら絶対寄席にも行かなくちゃ。高座で「寄席は良い」と何度もいってたし、その話をする時は何しろめっちゃ良い笑顔だったのだから。

喜多八師匠で始まった超幸せな落語ライフを、これからも続けていきます。ありがとうございました。

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