ブログ「いらけれ」

地獄の業火に焼かれている僕が、悪夢から醒める。そんな夜がある。小さな冷蔵庫を開けて、それからカーテンの内側に入り込んで、手に冷たいコップから、冷たい水を飲む。小さなサイレンが聞こえて、明かりなく見えない街は、それでもそこにあることが分かる。名声も大金も無い。代わりに、僕を罵る者もいない。丁度このように静かで、暗くて、そこで初めて、世界と人生が交じり合う光を見る。物心付いた時には、僕はここにいた。いつ終わるとも知れないから、まるで花火のように綺麗だ、と思う。

予め理解してほしいのは、これは真実ではないということで、だから、ここに書かれている出来事は、どこを探しても、どこまで遡っても見つけられないだろうし、書いている僕もいない。あなたは遊園地にいるというのに、眼前のジャングルを、宇宙を、お化け屋敷を、虚構ではないと言うのだろうか。つまりこれは嘘である、しかし、それは嘘にはならない。そこはジャングルではない、しかしあなたは、ジャングルにいると思ったのだから、そこはジャングルだと強弁してしまえ。作り事だったとしても、あなたの中に生起した感情は本当なのだから。

日記らしきものを書き始めたことには、何かしらの必然性があった。そのように僕は、過去を語り直すことができる。だから、そんなことを言い出した僕は、自分の中のゾンビに噛まれて感染したゾンビだ、銃で頭を吹き飛ばさなければならない。あの日、顔の横5センチをトラックが通り抜けていったように、すべては偶然のまたたきであると言いたい。


グーグル製の地球儀を回して、アジアから日本を、東京を見つける。埼玉寄りの、鉄道の路線が絡まったところに、人を降ろす。面積の広い墓地の正門から出て、交差点を左に曲がり、まっすぐ行って突き当り、汚れた壁にそって右に歩きながら、表札を探す。小さな庭には芝生が敷かれていて、その家の2階に、目当ての男がいる。けれど、部屋には鍵がかかっていて、入ることができない。鍵を閉めた男は、2016年に6万で買ったdynabookを、季節外れのアイスキャンディーを舐めながら触っている。

男の職業は物書きである。一日中キーボードを打ち続けたから、その日の仕事が終わった。男はさらに、日記を書いた。それが趣味だという(寂しい男だ)。そして、インターネットに公開しているという。男に会うと、口癖のように「あんな日記、読まなくていいっすよ」と話すが、本当にそう思っているなら、わざわざ書くわけがない。男のサイトには、問い合わせフォームが用意されていたけれど、当然、書き込みはなかった(どこまでも寂しい奴だ)。いつものようにアクセス解析をチェックしていて、問い合わせフォームへのアクセスを見つけた瞬間に、男の心臓が強く脈打ったのは、男以外知りようのない事実だ。