ブログ「いらけれ」

今から驚いた話をします。

その朝の私は新宿に着くまでKindleで、佐々木敦『「批評」とは何か?』を読んでいました。

この本を読むのは4回目ですから、すでにたくさんのハイライトが入っていました。過去の私と一緒に読んでいるみたいでした。私の人生の課題に取り組むためには、「批評」についてもう一度考えなければならない、思考を更新するためにこそ原点に帰るべきだ、と考えていました。

『小説の楽しみ』(水声文庫)という非常にベタなタイトルの本があって、二〇〇五年だからほんとに最晩年、国立のロージナ茶房っていう喫茶店で三回続けてやった講演を本にしたものです。これは本当に素晴らしい本です。

佐々木敦『「批評」とは何か?』

私は乗り換えのホームで、この部分を読みました。この本こそ私が前回書いた、古書防波堤で買った「小島信夫の小説論」でした。とても驚きました、鹿島さん、これは……スピってますか?

でも私は「スピリチュアルコーナー」に投稿しません。なぜなら私は、この本をすでに3度読んでいるのだから!!!

言ってしまえば忘れていただけですし、中で取り上げられている小説が丁度並行して読んでいた絲山秋子『袋小路の男』だったり、次に読み始めた長嶋有『電化文学列伝』(ちなみにこれも再読)で柴崎友香『フルタイムライフ』が扱われていたり、という例からも分かる通りですが、これからとても大事なことを言いますが、私は「界隈」をぐるぐるしているだけなんです。だから読んでいる本に、買った・読んだ本の名前が出てくるのは当然のことなんですよ。

とはいえ、やっぱり偶然の導きa.k.a.運命を感じないではいられないわけですが、それもまた一つの当然なのだ、という結論に至りました。

無数の本の中から私が選んだ本同士が、一つの星座をつむぐ。それは、他の誰でもないこの私が、考えるべきことを考えるために、調べて探して読んで学んで、賭けているからです。人生が、痕跡を残しているのです。

つまりこれは幸運、ラッキーではなくて幸福、ハッピーなお話だったのですね。私がちゃんと生きられているみたいで、良かった。

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少し涼しくなってから僕は、月に一度は吉祥寺まで自転車で一時間ぐらいかけて「古書 防破堤」に行くことにする。運動になるし、移動のお金はかからないし、本は手に入るしで、こういう一石三鳥に生きているって感じがする。
ケチで貧乏人(最悪!)だから、買う本に悩んで一時間ぐらいいる迷惑な客で申し訳ないのだけれど、そのおかげで、小島信夫の小説論とか大澤真幸と國分功一郎の対談本とか、知らなかった本を買えた。

「こんなの、誰が読むんだろう」というような本を棚から抜き出して、颯爽とレジへ向かう知らん人に興味と憧れを持っていたら、いつの間にか僕が知らん人になっている。なり方があって、それは自分なりの課題を見つけて、そのことについて知りたいとか分かりたいと思う、というものだった。だって、自分なりの課題を深く理解するためのヒントは、たいていベストセラーには書かれていない。人間はつまるところそれぞれに特殊な存在で、悲しいほどに違うから、自分なりの課題も別々で、誰が読むのか分からない=自分が読むしかない本を読むように追い込まれる。

悲しいほどの違いを手に入れたときに、やっと人生が始まるのだと繰り返し言っているのは、それまではあなたはあなたでありながら他の誰かでもあり、それゆえ誰でもないからだ。「新しいあなたらしい道を探し手に入れろ生きる証」ってLIBROも言っていた。

他者の基準に、社会で流行りの基準に合わせて生きて、そのなかで受ける言葉で話すという処し方はあって、でもそれでは絶対的に駄目なんだ、ということを分からざるをえなかった一年は、とても苦しかった。僕は、よく生きたなと思った。一見正しそうで優しそうな、でも本当は自分がよく見られたいがためのおためごかしは、いつかどこかで裏返って、最後には人を深く傷つける。僕は独りで、僕なりの課題に向き合おうと思った。この独りの先にしか、誰かを救う言葉はないと思ったから、単数が複数になるまでの、これは闘いだ。

ブログ「いらけれ」

そいつの話した理想や希望が綺麗事で、人を変えるような力を持たないどころか、上辺を取り繕うだけのshitだったということを、そいつ自身の終わっている振る舞いで証明しているような偽善こそが撃つべき対象だった。

人生の底で、私は人生の課題を見つけ、それは偽物の言葉ではない本当に人を救う言葉で、言説で人を救うことだった。

課題を見つけた人間は、不幸な偽りの人間よりも幸福なのだろう。幸福なふりをできてしまう偽りの人間は、不幸に立ち向かえず、死ぬまで不幸なのだから。生きるとは思うことであり、奮闘することであり、立ち向かうことなのだろう。人生に立ち向かわないかぎり、人生は始まらないのだから。