ブログ「いらけれ」

嘘ばかり書いていると、嫌われるって知っている。だから、そろそろ本当のことを話そうと思う。

手元に残っているメールによれば、11月11日、月曜日の午前2時に最初の長文を送っている。それは、「なんでも箱」にもらったコメントへの返事だった。僕と、相手のN氏は、知らない仲ではなかったけれど、顔を合わせたのは一度きりだったし、はっきり言って、もう二度と会わないと思っていた。もちろん、その時の印象が悪かったとか、苦手なタイプだったとか、そういことでは決してない。ただ、これまでの人生がそうだったから、そうだと思っただけだ。

気の合う人と出会えたとして、その誰かと友人になれる確率は、計算したくないほどに低い(こうした言葉の外に、だから今、孤独でしょうがないあなたは普通で、何も問題はないのだ、という思いを込めている)。その偶然は神の導きではないから、何かしらのイベントや用事で初対面、きっかけも時間の余裕もないから、そのまま別れて忘れ得ぬ人となりがちである。

なぜか、たわい無い日記を書いて、公開している変わり者である。そんな僕でも、「あの時の私です」的な連絡をもらうことがある(こうした言葉の内には、だからあなたも日記を書いてみてはいかが、という提案が含まれている)。

みんな多分、「本当はもうちょっと話したかったなあ」とか思っているんだ、きっと。自信ないけど。でも、いきなり連絡先を聞くのもあれだし的な何かで帰って、その後に検索して、声をかけてくれたのだろう、きっと。マジで自信ないけど。

実際のところ、凡夫にも届かような僕に、連絡を寄こす人というのも、相当な変わり者である。本来は警戒すべきなのかもしれないが、でもまあ、変わった形の石だけが埋められる石垣の隙間だってあるのだろうと思って、いきなり「会いませんか」と書いた。そうして始まったやり取りが積み重なって、さまざまな予定が決まっていった。

例えば、頭痛派というグループをやっているんですねに、今はあってないようなものですけど、本当はサイトの執筆者を増やしたいとか、動画配信してみたいとか、いつかは同人誌を出してみたいと思っているんですよと答えて、同人誌良いですねとなったから、文学フリマに行ってみることにした、なんてドラマが、裏側で進行していたのだ。

こうして僕は、手に入れたばかりの同人誌と文学フリマのカタログ、着替えなどをリュックに詰め込んだ。出発は、12月3日の朝だった。どうしようもなく暇で、旅をしたいと思っていた僕が新幹線に乗って、彼の住む地まで行くことにした。その目的地は、長野だ。

ブログ「いらけれ」

地獄の業火に焼かれている僕が、悪夢から醒める。そんな夜がある。小さな冷蔵庫を開けて、それからカーテンの内側に入り込んで、手に冷たいコップから、冷たい水を飲む。小さなサイレンが聞こえて、明かりなく見えない街は、それでもそこにあることが分かる。名声も大金も無い。代わりに、僕を罵る者もいない。丁度このように静かで、暗くて、そこで初めて、世界と人生が交じり合う光を見る。物心付いた時には、僕はここにいた。いつ終わるとも知れないから、まるで花火のように綺麗だ、と思う。

予め理解してほしいのは、これは真実ではないということで、だから、ここに書かれている出来事は、どこを探しても、どこまで遡っても見つけられないだろうし、書いている僕もいない。あなたは遊園地にいるというのに、眼前のジャングルを、宇宙を、お化け屋敷を、虚構ではないと言うのだろうか。つまりこれは嘘である、しかし、それは嘘にはならない。そこはジャングルではない、しかしあなたは、ジャングルにいると思ったのだから、そこはジャングルだと強弁してしまえ。作り事だったとしても、あなたの中に生起した感情は本当なのだから。

日記らしきものを書き始めたことには、何かしらの必然性があった。そのように僕は、過去を語り直すことができる。だから、そんなことを言い出した僕は、自分の中のゾンビに噛まれて感染したゾンビだ、銃で頭を吹き飛ばさなければならない。あの日、顔の横5センチをトラックが通り抜けていったように、すべては偶然のまたたきであると言いたい。


グーグル製の地球儀を回して、アジアから日本を、東京を見つける。埼玉寄りの、鉄道の路線が絡まったところに、人を降ろす。面積の広い墓地の正門から出て、交差点を左に曲がり、まっすぐ行って突き当り、汚れた壁にそって右に歩きながら、表札を探す。小さな庭には芝生が敷かれていて、その家の2階に、目当ての男がいる。けれど、部屋には鍵がかかっていて、入ることができない。鍵を閉めた男は、2016年に6万で買ったdynabookを、季節外れのアイスキャンディーを舐めながら触っている。

男の職業は物書きである。一日中キーボードを打ち続けたから、その日の仕事が終わった。男はさらに、日記を書いた。それが趣味だという(寂しい男だ)。そして、インターネットに公開しているという。男に会うと、口癖のように「あんな日記、読まなくていいっすよ」と話すが、本当にそう思っているなら、わざわざ書くわけがない。男のサイトには、問い合わせフォームが用意されていたけれど、当然、書き込みはなかった(どこまでも寂しい奴だ)。いつものようにアクセス解析をチェックしていて、問い合わせフォームへのアクセスを見つけた瞬間に、男の心臓が強く脈打ったのは、男以外知りようのない事実だ。