ブログ「いらけれ」

 予断なしに卒業アルバムを開くと彼女の笑顔があって、ドキッとした自分が不甲斐ない。もう十年も前のことなのだから、「かわいい」などと思ってはいけないのに。それなのに、別れ話を切り出された電話のときの、この椅子から見えた高校サッカー選手権の決勝の試合が、記憶の取り出せる位置にあって卑しい。あれは間違いなく2010年のことだ、でも調べてみると、優勝を見届けたはずの広島皆実高校が選手権を制覇したのは2009年1月12日だとWikipediaに書いてある……どこで、なにがずれた?

 人生のどこでなにがどうずれたのか、考え始めて終わらなくなり、風呂に入っている私がのぼせる。しかし、さっきまで読んでいた文集のことを思い出してしまう。およそ、のちに物書きになるとは思えない男の文章のことを。

ブログ「いらけれ」

 いつでも電話できるテクノロジーをポケットに入れたのは、僕について言えば高校生になったその瞬間で、まだガラケーという言葉がなかったのは、スマホの発明を世界が待っていたからだ。初めて持ったケータイは紺に近い深い青で、少しだけキラキラするような塗装がされていて、折りたたみ式で、液晶の裏側のボディの真ん中に大きなレンズが付いている。カメラを使うことはほとんどなかったから、いくつものケータイを経由して、現在のスマホのフォルダーの深層に残っている校舎で撮られた画像はたったの一枚で、久々に思い出したけれど、校舎の二階には自動販売機が設置されていて、その前には小さな丸テーブルがあって、男子二人が肘をつき、組み合った手を男性教師の両手が包み込んでいる。