ブログ「いらけれ」


BUGY CRAXONE『たいにーたいにー』Music Video

わるいこと とくにしてないのに かなしいな
大丈夫 そういうことが
わたしたちをつよくすんでしょ?

K駅の近くの駐車場兼駐輪場の、古びた緑の、三階か四階建ての建築物が取り壊されるという情報は、二か月ほど前から知っていた。年が明けると、停めてあった車の姿が、徐々に少なくなって、縞模様のロープが張られるようになった。ある日に前を通ると、防音という文字が大きく書かれた輝きの無い銀色のシートで、すべてが覆われていて、不気味な存在感を放っていた。
明日書くことになるだろう、明日の地域寄席のチケットを電話で予約したら、今日公民館に取りに来てくれということだったので歩いて行って、窓口でそのことを伝えたところ係の人がバタバタしていて、さっき電話したのに、そういうもんかなあと思った帰り道だった。件のシートの向こうで、取り壊しの工事が始まったようだった。それでも大きな音は、隣接する道路にまで漏れていた。僕は、イヤホン越しに聞こえてくる音に、聞き覚えがあった。


「頭痛派」は、どこかで見たことがあるような、ありきたりの物語を、しかし、毎日欠かさず伝える放送局。音楽とともに始まって、音楽とともに終わる番組などで構成されている。スタッフは一人で、スポンサーも一人。明日には、どんな世界が描かれるのだろうか。それは誰にも分からない。でも、続いていくことだけは決まっているのだ、世界がそうであるように。


中東情勢が緊迫しているとテレビで盛んに報道されていたのは、いつごろだっただろうか。あるいは僕が、テレビを見なくなっただけなのだろうか。過激派によるテロは続いているのだろうが……。今ではすっかりリアリティはなくなって、遠く隔たった地を日常生活の中で思い出すことはなかった。あの防音シートの向こうにある紛争を想像する。幻視する。実感を伴わないほど離れてしまえば、どんな事件でも僕は、空想の種にしかできなかった。
地域寄席が21時に終わって、冷たい空気と大きな月だった。聞いた落語を思い出しながら歩いていていると、あのシートに、大きな隙間ができている。紛争を探してそちらに目を向けたら、驚くほど巨大なトラックの顔が飛び込んできた。昼間には、確かに誰かが、そこで取り壊し工事をしていたのだ。いずれはすべて壊されて、そこも、更地になるのだろうか。


世界は終わってなかった トモフスキー

同じ景色を
眺めていても
昨日までとは
なにもかもが
違って見えるんだ