君は何か言いたげだった

「無限から一つを選ぶことは、人間には難しすぎるでしょう?だから、必要なのは、迷っても”選べる”くらいの有限へ引き戻す、意味のない仕組みで」
「あー……締切……」
「そう。あと、文字数の制限とか掲載誌。そういうもののせいで書かざるを得ないことが大事だね。そうやって書くときに要請されるのが、設定とか物語」
「ああ……」
「設定や物語は意味であり、意味の中なら”選べる”から。それでも想像力のない人間には難しいけれどね」
「うう……」
「登場人物の背景を決める、時代を、舞台を決める。そうすれば自ずと起こることは限られてくる。起こらないはずのことも」
「うん」
「少しずつ起こらないはずのことを入れて、意外性を微調整しながら、読む人間の反応をコントールすれば良い」
「そんな……簡単に言うけどさ」
「できる?」
「無理」
「そう」とだけ、彼女は言った。

そうか小説なんて、大切な人の死ぬ映画や、悲しげなメロディの音楽のように、受け手の感情に影響を与えればいいだけなのか、ってわたしは思ったから、そうじゃない小説を書くことを試みている。新しい地図を描くために。
3カ月が過ぎて、ワードのページが1000になった。でもまだ書いてる。これがいつか、わたしの納得のいくものになったら、彼女に見せよう。


FoZZtone – 春と鉛

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